「ファイナンス職って、具体的にどんな仕事?」
そう聞かれて即答できる人は、実はそれほど多くありません。経理や財務、FP&A、経営企画など、関係する職種はよく聞くものの、それぞれの違いや役割のイメージが曖昧なままの方も多いのではないでしょうか。
ファイナンスとは本来「資金の調達・運用・管理」を意味する言葉で、企業においては数字を使ってお金の流れを記録・分析し、経営判断を支える仕事を指します。つまり、企業の現在地を見極め、未来の方向性を描くために不可欠なポジションです。しかし現実には、「経理も財務も似ている?」「FP&Aと経営企画の違いがわからない」といった混乱が生じやすいのも事実です。
この記事では、ファイナンス職に関わる主要な4職種(経理・財務・FP&A・経営企画)について、役割の違いから必要なスキル、年収、キャリアパスまでを徹底的に解説します。未経験からファイナンス職を目指したい方や、今後のキャリアに戦略的な選択を加えたい方にとって、第一歩となる情報をわかりやすくお届けします。
ファイナンス職とは?|企業の意思決定を支えるプロの仕事
- ファイナンス職は「お金を管理・活用する」職種の総称
- 企業の意思決定に影響するデータを扱う
- 「守り」だけでなく「攻め」の役割も担う
ファイナンス職とは、企業のお金にまつわる情報を整理・分析し、経営判断を支援する専門職の総称です。経理・財務・FP&A・経営企画など、役割ごとに細分化されますが、いずれも「数字」を武器に企業を支える共通点があります。
たとえば経営層が「新規事業に投資すべきか」「海外拠点を閉鎖すべきか」といった判断を下す際、根拠となるのはファイナンス職が整理したデータです。その意味で、現場よりも一歩引いた“戦略の司令塔”のような存在です。
かつては「裏方」の印象が強かった職種ですが、近年では利益拡大や成長戦略を主導する“攻めのファイナンス”として注目されています。未経験からでも知識とスキルを積めば、十分に目指せるキャリアです。
ファイナンスの語源と職種との関係性
「ファイナンス(finance)」は、ラテン語の「finis(終わり、決着)」を語源とし、もともとは「金銭上の決済」や「債務の完了」といった意味を持っていました。現代では、国家であれば「財政(government finance)」、企業であれば「財務(corporate finance)」を指す言葉として定着しています。
企業におけるファイナンス職とは、この「財務=お金の調達・運用・管理」に関わるすべての職種の総称です。ただし実務では、単なるお金の流れの記録にとどまらず、「企業価値をどう高めるか」という視点が求められます。
そのため、経理・財務・FP&A・経営企画といった職種が「ファイナンス職」として括られ、いずれも企業の意思決定に影響するデータや資金戦略に関与する役割を担っています。
つまり、ファイナンス職とは「数字を通じて企業を導く」職種群であり、単なる事務処理を超えて、経営の根幹に関わるプロフェッショナルと位置付けられます。
経理とは?|日々のお金の流れを正確に記録する役割
- 経理は「日々のお金の出入りを記録・管理する」仕事
- 正確な会計処理を通じて、企業の信頼を支える
- 初心者でも比較的チャレンジしやすい職種
経理とは、企業活動に伴って発生する「お金の出入り」を正確に記録・処理する仕事です。売上や仕入、交通費や家賃など、すべての取引を帳簿に記録し、月次・年次の決算業務にまとめていきます。
企業が税務申告や財務報告を適切に行うためには、日々の記録が正確であることが不可欠です。その意味で経理は、会社の「健康診断」を行うような役割を担っており、ミスのない処理と地道な積み重ねが求められます。
特に中小企業では、請求書の発行・振込処理・給与計算など幅広い業務を任されることもあります。ルーティンが多い分、業務フローが習得しやすく、ファイナンス職の入口として未経験者にも人気の職種です。
会計ソフトの普及により作業効率は上がっていますが、簿記の知識や会計の基本を身につけておくと、転職やキャリアアップの際に有利です。経理経験を土台に、財務やFP&Aへとステップアップする道も開けています。
財務とは?|資金調達や資金繰りを通じて会社を動かす仕事
- 財務は「お金の流れを設計・管理する」仕事
- 資金調達や資金繰りを通じて、企業活動を支える
- 経営層に近い意思決定や外部との交渉も多い
財務とは、企業の事業活動に必要な資金を「いつ・どこから・どうやって」調達し、安定的に運用していく役割を担う職種です。日々の資金繰り管理から、金融機関との交渉、投資計画に応じた資金戦略の立案まで、多岐にわたる業務を担当します。
経理が「過去のお金の動きの記録」に重きを置くのに対し、財務は「未来のお金の流れをどう設計するか」が主な関心事です。そのため、将来のキャッシュフローを見通し、事業が止まらないよう資金を回す“企業の血液循環”のような存在とも言えます。
また、財務は経営層との距離が近く、銀行や投資家といった外部ステークホルダーとの調整も多いため、高い信頼性や交渉力が求められる仕事です。未経験でも経理や会計知識からステップアップするルートがあり、スキル次第で経営の中枢に関わることも可能です。
FP&Aとは?|数字をもとに未来を描く“戦略的ファイナンス”
- FP&Aは「財務計画と業績分析」を担当する部署
- 過去と現在の数字をもとに、未来の経営を設計する
- 経営判断を支える“戦略的ファイナンス”の中核
P&Aとは「Financial Planning & Analysis」の略で、日本語では「財務企画」や「経営企画部門の一部」と訳されることもあります。主な仕事は、予算の策定・業績のモニタリング・差異分析などを通じて、経営の意思決定を数字でサポートすることです。
売上やコストの動きを細かく分析し、「なぜ利益が伸びないのか」「どの事業が伸びているのか」を明らかにすることで、企業は次の一手を打つことができます。つまりFP&Aは、過去と現在の数字から“未来の戦略”を描くポジションです。
経理や財務が「正確な記録」や「安定した資金管理」を担うのに対し、FP&Aは「どうすればもっと儲かるか」に焦点を当てる“攻め”のファイナンス。経営層へのレポーティングや事業部門との連携も多く、論理的思考力・ビジネス理解・コミュニケーション力が求められます。
外資系企業や上場企業では特にFP&A部門が重視されており、今後もニーズの高まる分野です。未経験でも経理や財務からのキャリアアップを目指せる注目の職種です。
経営企画とは?|事業戦略に深く関わるハイレベル職種
- 経営企画は「会社全体の戦略を設計・推進する」役割
- 数字分析に加え、事業・組織・制度など多方面を俯瞰する
- 経営層と近く、高度なビジネススキルが求められる
経営企画とは、企業全体の方向性を定め、中長期の事業戦略を設計・実行する職種です。経営陣の意思決定を補佐する“参謀”のような存在で、会社の「将来」を形づくる重要なポジションと言えます。
業務は多岐にわたり、経営戦略の立案、新規事業の検討、組織再編、M&Aの検討、KPI管理、競合分析などが含まれます。ファイナンス的な視点だけでなく、事業や組織、制度に対する広範な理解が求められるのが特徴です。
また、経営層との距離が非常に近いため、論理的な思考力と数字に基づいた判断力に加えて、プレゼン・調整・交渉といったコミュニケーション能力も不可欠です。現場との温度差を埋めるための“翻訳者”の役割を果たすこともあります。
未経験からの転職は簡単ではありませんが、経理・財務・FP&Aでの実績を活かし、戦略・企画領域へキャリアアップするケースも多く見られます。「経営視点で働きたい」「事業成長に直接貢献したい」という人にとって、非常にやりがいのある職種です。
それぞれの違いを図解で比較|求められるスキル・年収・やりがい
- 経理・財務・FP&A・経営企画は役割もスキルも異なる
- 難易度や年収には段階的な違いがある
- キャリアアップの道筋としても活用できる
職種 | 主な業務内容 | 時間軸の焦点 | 役割・位置づけ | 求められるスキル | キャリアの特徴 |
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経理 | 企業活動に伴う「お金の出入り」の記録・処理、売上・仕入・経費の帳簿記録、月次・年次決算業務、請求書発行・振込処理・給与計算 | 過去のお金の動きの記録 | 会社の「健康診断」を行う役割、正確な記録と処理が不可欠 | 簿記の知識、会計の基本、ミスのない処理能力、地道な積み重ね | ファイナンス職の入口、未経験者にも人気、財務やFP&Aへのステップアップ可能 |
財務 | 企業の事業活動に必要な資金の調達・運用、日々の資金繰り管理、金融機関との交渉、投資計画に応じた資金戦略の立案 | 未来のお金の流れをどう設計するか | 企業の血液循環のような存在、経営層との距離が近い、銀行や投資家との外部ステークホルダーとの調整 | 高い信頼性、交渉力、会計知識 | 経理や会計知識からステップアップ可能、スキル次第で経営の中枢に関わることも可能 |
FP&A(Financial Planning & Analysis) | 予算の策定、業績のモニタリング、差異分析、売上やコストの動きを分析 | 過去と現在の数字から未来の戦略を描く | 経営の意思決定を数字でサポート、攻めのファイナンス | 論理的思考力、ビジネス理解、コミュニケーション力 | 外資系企業や上場企業で重視、ニーズの高まる分野、経理や財務からのキャリアアップ可能 |
経営企画 | 企業全体の方向性を定める、中長期の事業戦略を設計・実行、経営戦略の立案、新規事業の検討、組織再編、M&Aの検討、KPI管理、競合分析 | 会社の将来を形づくる | 経営陣の意思決定を補佐する参謀的存在、現場との温度差を埋める翻訳者の役割 | 論理的な思考力、数字に基づいた判断力、プレゼン・調整・交渉といったコミュニケーション能力、事業や組織に対する広範な理解 | 未経験からの転職は困難、経理・財務・FP&Aでの実績を活かしたキャリアアップが多い、経営視点で働きたい人に適している |
ファイナンス職と一括りにされがちですが、経理・財務・FP&A・経営企画はそれぞれ役割や視点が異なります。どこを起点にして、どこを目指すかで求められるスキルやキャリア設計は大きく変わってきます。
たとえば経理は「記録と正確性」が重視され、簿記や会計知識が必須。財務は「資金の流れと管理」が中心で、金融知識や外部との折衝力が求められます。FP&Aは「分析力と未来視点」、経営企画は「全社戦略とビジネス感覚」がカギとなります。
年収面では、一般的に経理<財務<FP&A<経営企画という傾向があり、業務範囲が広くなるほど上昇します。また、やりがいや影響力の観点でも、経営に近づくほどダイナミックな経験ができるのが魅力です。
このような違いを表にまとめると、どの職種が自分に向いているか、また今後どのようにキャリアを積んでいけばよいかが見えてきます。未経験から入るなら経理や財務から、将来的にFP&Aや経営企画を目指すキャリアパスも現実的です。
ファイナンス職に向いている人とは?|未経験から目指すためのヒント
- 数字に強く、論理的に考える力がある人に向いている
- コツコツと正確に積み上げる姿勢も重要
- 未経験でも簿記やExcelスキルでキャリアの土台を築ける
ファイナンス職に向いているのは、まず「数字に苦手意識がない人」。難しい数式が必要なわけではありませんが、売上や利益、コストなどを数字で読み解く力が土台になります。
また、経理や財務では細かな処理を正確に積み重ねる姿勢が不可欠。FP&Aや経営企画に進むと、分析や戦略思考の精度が求められるため、「ロジカルに考えるのが好き」「仮説を立てて検証するのが得意」という人にも適性があります。
未経験から目指す場合は、まず日商簿記2級レベルの知識を身につけるのがおすすめです。あわせてExcelやスプレッドシートを使いこなせるようになると、実務に直結するスキルとしてアピールできます。
さらに「なぜファイナンス職に就きたいのか」を言語化しておくことも重要です。地道な作業と戦略的思考が共存する分野だからこそ、自分の得意や志向と照らし合わせながら長期的にキャリアを描いていけます。
未経験からのキャリアパス|年収アップ・市場価値を高める方法
- ファイナンス職は段階的に専門性を高めていける職種
- 経理や会計サポート職からのスタートが現実的
- 資格・実務経験・業務改善力が年収アップにつながる
ファイナンス職は未経験でも段階的にキャリアを築ける分野です。最初の一歩としては、経理アシスタントや会計事務所の補助スタッフなど、「記録を覚える」仕事から入るのが現実的です。
実務を通じて会計ソフトや簿記の知識を身につけたら、日商簿記2級やUSCPAなどの資格取得を目指すと、専門性を証明でき、転職市場でも高く評価されます。特に30代以降のキャリアチェンジでは「知識×経験」の両輪が重要になります。
中長期的には、FP&Aや経営企画といった戦略系の職種に進むことで、年収600万〜1000万円超も狙えるようになります。そのためには「数字をもとに改善提案できる力」や「他部署との連携力」が求められます。
業務改善の経験や、予算・実績管理に関わる機会を得られれば、職務経歴書にも強みとして書けるようになります。未経験であっても、学ぶ意欲と着実な経験の積み重ねが、キャリアと年収の両方を伸ばすカギになります。
まとめ
ファイナンス職は、単にお金を扱うだけの仕事ではなく、企業の意思決定や成長戦略に深く関わる重要なポジションです。経理・財務・FP&A・経営企画といった職種ごとに役割や求められるスキルは異なりますが、共通して「数字で考える力」が土台になります。
未経験からでも、簿記やExcelなどの基礎を身につけることで、確実にキャリアを築いていくことが可能です。まずは経理などの実務を経験し、段階的に財務やFP&A、経営企画へとステップアップする道も十分現実的です。
また、ファイナンス職は汎用性が高く、企業規模や業界を問わず活躍の場が広がっています。自分の志向やライフステージに応じて、専門性を深めたり、マネジメントや経営層を目指したりと、多彩なキャリア設計が可能です。
「数字を通じて企業を動かす」ファイナンス職は、これからの時代にますます必要とされる存在です。興味を持った今こそ、第一歩を踏み出すチャンスです。自分に合った入り口から、長く価値のあるキャリアを築いていきましょう。
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